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内容更新日:2002.08.19.
レイアウト更新日 : 2016.04.24.


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X.専門的な補足説明
 当レポートに使用した「臨界速度」という用語は、本来正しくない。空気抵抗の急減する速度は、気象状態によって変化するからである。この事を説明するには、少々専門的な説明を加えなければならない。ここでは「レイノルズ数」と「乱れ倍数」という考え方を導入して、レポート中に用いた「臨界速度」と「臨界レイノルズ数」の関係と、「臨界レイノルズ数」と「乱れ倍数」の関係について述べる。


1)臨界レイノルズ数

 物体の運動を説明する時、一般にはその物体の「速度」が用いられる。しかし、流体(気体、液体)の中をある形を持った物体が運動する場合には、「速度」だけでは一定の説明ができなくなる。これは、同じ速度でも物体の大きさ、流体の温度や密度、粘性等が変化すると物体まわりの流れの様相が変わってしまうためである。そこで、これらの影響を加味して算出されたある数を用いて一定の説明ができるように工夫をする。この数の事を、流体の力学では「レイノルズ数」と呼ぶ。この数を用いると例えば、「レイノルズ数が○○の時に抵抗が激変する」と表現する事ができる。速度でこれを説明しようとすると、気象状態によってその現象の起こる速度が変わるから、「速度が○○の時に…」という表現は正しくない。(当レポート内では説明を簡潔にするために、標準大気[気温15℃、気圧1013.2 mb、湿度75%]の条件下での速度を示してある。)従って、「臨界速度」という言葉も本来用いず、正しくは「臨界レイノルズ数」という用語が用いられる。臨界レイノルズ数と気象状態に対応した速度を、次表に示しておく。表中の速度倍数は標準大気を1とした時の速度の倍率で、例えば標準大気条件から気温だけが10℃に変わった場合は、当レポート内における速度表記の全てに0.968をかければよい。この時、臨界レイノルズ数に対応する速度は15.3×0.968=14.8 m/s となる。つまり、気温が10℃に下がると14.8 m/s の速度で抵抗が激変する。なお、バレーボールの臨界レイノルズ数は、「乱れ倍数」の影響を加えて2.20×10であった。乱れ倍数については、次に説明する。


気圧=1013.2mb、湿度=75%

気温(℃) 速度倍数 (臨界速度)
 5 0.936 14.3
10 0.968 14.8
15 1.000 15.3
20 1.033 15.8
25 1.067 16.3


気温=15℃、湿度=75%

気圧(mb) 速度倍数 (臨界速度)(m/s)
 900   1.126 17.2
 950   1.067 16.3
1000   1.013 15.5
1013.2 1.000 15.3
1030   0.984 15.1
※ 標高の高い地に行けば気圧も下がる。天気図の気圧は0mに修正されているから、実際はそれよりも低い。100mで約10mb下がる。

気圧=1013.2mb、気温=15℃

湿度(%) 速度倍数 (臨界速度)(m/s)
 50 0.998 15.3
 75 1.000 15.3
100 1.002 15.3




               d × v
レイノルズ数  Re =─────
                 ν


        d = 物体の大きさ(球の場合は直径)(m)

        v = 速度( m/s )

        ν = 空気の動粘性係数 <標準大気条件で 1.463x10 -5 m2/s >



 なお、レイノルズ数は物体の大きさにも関与する。当レポートは5号ボールについて書かれており、4号ボールの場合は、前表の速度倍数の上に更にボールの大きさの逆比、1.048をかければよい。但し、この場合は実用上、条件が変わるので注意が必要になる。
 4号ボールを使用する家庭婦人や中学生では、高校や一般のネットより低いので、より速いサーブを打つ事が可能となる。しかし、平均して力(パワー)が弱い。その上、臨界レイノルズ数は変化しないので、ボールが小さくなれば(臨界速度)はその分、大きくなる。即ち、5号ボールでは臨界レイノルズ数以上の速度でサーブを打てる<<可能性>>は充分あるが、4号ボールではむずかしいかもしれない。よく言われる「小さいボールは変化しにくい」という説は、この意味では真をついている。ここで<<可能性>>という表現を用いたのはサーバーが速いサーブを打てるかどうかではなく、実験によって求められた臨界レイノルズ数がもう少し高い値かもしれないという事である。


2)乱れ倍数と有効レイノルズ数

 臨界レイノルズ数は、空気中に乱れがあると値が小さくなる。つまり、乱れがあればあるほど、小さい速度で抵抗の激変が起こるようになる。実験を行なった風洞装置はファンで空気を取り入れ、網目を通すなどして大きな乱れを取り除いているが、一般大気中の乱れから比べればかなりの乱れを含んでいる。そのため、各風洞装置は完全球で臨界レイノルズ数を測り、一般大気中の臨界レイノルズ数と比較して「この風洞で実験を行なった結果は、何倍すれば一般大気中のレイノルズ数の結果に相当する」という定数を用意しておく必要がある。この定数を「乱れ倍数」と言い、一般大気中の場合に相当するレイノルズ数を、実験レイノルズ数に対して「有効レイノルズ数」と言う。即ち、

  [有効レイノルズ数]=[実験レイノルズ数]×[乱れ倍数]

 ところが実験を行なった風洞では乱れ倍数が用意されておらず、同型の風洞実験装置の乱れ倍数を調べた上で、この風洞の乱れ倍数を1.20と予測設定した。従って乱れ倍数がこの設定値より大きい事もあり得るわけで、この場合有効な臨界レイノルズ数も大きくなり、5号ボールでも抵抗を激変させるサーブを打つのがむずかしくなるかもしれない。そういう意味で、前述の<<可能性>>という表現を用いたのである。
 なお、完全球の一般大気中での臨界レイノルズ数は3.85×10 で、それに対して実験で求めたバレーボールの有効な臨界レイノルズ数は2.20×10 とかなり小さくなっているが、これは乱れ倍数のまちがいではなく、ボールが完全球でないために起こった現象である。物体の壁面に沿った流れは非常に繊細であり、表面に0.1mmの凹凸があっても、ゴルフボールで説明したような大きな変化を引き起こす。バレーボールには皮の貼り目、文字の刻印、微細なキズなど、乱れを引き起こす要因が無数にある。完全球に比べて臨界レイノルズ数が小さいのは、大気中の乱れとは別に、ボール自身にも乱れを作る原因があるからである。ここで更に考えを一歩進めると、乱れがあると抵抗の激変する速度が変わる、あるいはボール後方の乱れに変化が起こるのであるから、サーブを打つ時に乱れの残っていそうな所、ブロックが行なわれたあと等を狙うと変化するかもしれない。目に見えなくとも空気中の乱れはしばらく残っているはずである。
 最後に、当レポートにおいては重量、力の単位に kgw 又は gw を用いている。これは各々 kg重、 g重とも書き、地表上で質量1 kg の物体にかかる重力を1 kgw とする。( w は weight の略)一般にはかりで測る重さは kg や g で表わされているが、これらは全て kgw 、 gw が本当の単位となる。工学においては通常 w をつけずに単位に kg 、 g と書くので混同してはならない。物理学では、重量、力の単位は kg.m/s2 である。これは、力の公式、F=mαより単位だけ計算すれば明白である。そして、1 kg の質量に地表上の重力加速度 g=9.807 m/s2 が加わった時、その力の大きさ、重力=1 kg ×9.807 m/s2 =9.807 kg.m/s2 となる。即ち、工学で言う1 kg という大きさの力は、物理学で言う9.807 kg.m/s2 に等しい。この事を誤ってFに250 gw =0.25 kgw の数字をあてはめてF=mαの計算をすると、ボールはほとんど変化しないという結果が出てしまう。そこで、一般に用いられている工学系の力の単位 kg と物理学系の質量の単位 kg の区別をさせるため、前者の単位に w をつけて示すこととした。